地かつら老田

「地かつら」の素晴らしさを現代に伝えると共に「かつら岡米」の技術を守り続ける

岡米かつら

ネットの開発 その1

浅草と銀座を往復する忙しい状況が続く中、平和博覧会に出品したものよりさらに新しいかつらの制作に心血を注いでいました。新派のお芝居は歌舞伎と違い、リアルであることが求められていた時代。かつらもそれに合わせてより自然でなくてはならないと考え、本当の髪のように見せるにはどうしたらよいか、来る日も来る日も研究を重ねていました。
 
 かつらと本物の髪の違いが如実に表れるのは、生え際です。この生え際をより自然な状態にすれば、今まで以上に本物の髪のように見える、そう考えた私は、おでこに薄いネットやジョーゼットなどを張りつけては「どうだ、どうだ」と店の者に聞きまわっていたものです。
 
 今でこそ、ナイロンなど良質の素材が出来て、薄くて丈夫なネットは当たり前ですが、当時はストッキングなども弱く、何本か髪を通すと破れてしまったり、重さに耐えきれなくなってしまったりと、それはそれは大変な思いをしました。ストッキングの会社をいろいろ回ったり、毛が丈夫なため網目が平均になっていないと美しく見えないことから、ひとつの網目にどれだけ植毛すれば自然に見えるかを研究したりしました。
 
 また、生え際の網と共に、ネットの目の大きさを保つため、裏に塗る薬も重要なポイントです。これは、分け目の部分には地肌となって外から見えますから、人の地肌に近い色であることも求められました。それまでのネットは綿でしたから、ナイロンに代わって、素材の持つ性格の違いや、直接肌に触れるため、かぶれたりしないことを条件に探さなくてはなりませんでした。懇意にしていた科学の権威(大学の先生だったでしょうか)に相談し、様々な失敗を繰り返しながら見つけ出しました。

-岡米かつら